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環境カオリスタが行く!「ホリスティックトラベル」のススメ vol.33 熊本・小国編

精油を求めて、スギの森林へ

カオリスタ視点で旅を計画すると、地域ならではの“ご当地精油(エッセンシャルオイル)”が旅の目的になることもあります。現地で、精油が作られる物語の背景を体感できたなら、きっと五感に響く最高の旅となるはず。
今回は、面積の78%を森が占めているという緑の町、熊本県小国町(注1)に、小国杉の精油を求めてやってきました。
小国町の森の75%は人工林で、ほとんどが小国杉といわれるスギです。木目がぎゅっと詰まった良質の木材として定評のある小国杉は、阿蘇外輪山外側の裾野に広がる肥沃な土壌で成長するのだとか。一年を通して寒暖差が大きい土地柄だけに、厳しい自然の中で育まれた植物の豊かな香りを期待してしまいます。
いざ、精油を求めて小国町へ!

小国町を北へ南へとドライブしてみると、右も左も森だらけ。高台の橋の上から杉の森を見渡すと、なだらかな傾斜に規則正しく植樹された美しさに息を飲む。

小国杉の歴史は、江戸時代に細川藩の命で1戸につき25本の杉穂が渡され、挿付けが行われたのが始まりです。その後、明治時代に一気に植林が進められたため、林業が栄え、以降、町民の暮らしの礎となりました。
江戸時代から250年も続く森を管理する山主、北里栄敏さんは親から継いだ山を管理するために公務員の仕事を辞めたのだそうです。
「実家の財産である山を継いだら、杉を守り、森を育てていくことをしなくてはいけないんです。うちの場合は約180ヘクタールと広い面積の森だったので、他の仕事との両立は難しかったんですよ」。

ここでは、ほとんどが民有林。北里さんのように祖先から代々続く森を継いだ山主が多く、それぞれが個人や会社で管理をしています。一方でいくら良木がとれたとしても宝の山とはいえないとか。
「昔はブランド杉として需要の高いときがありましたけどね、今は材木で儲けようと思ってもそうはうまくはいきませんよ。近頃、柱の見える家って少ないでしょう? だから、いい木材を育てても売れないんですよ。輸入材もたくさん入ってきていますし」。

木材の材質は1本毎に異なりますが、建築のニーズによっては、同じ山で同様の条件で育つからこそ選ばれるケースもあります。北里さんの持つ山林は適切な管理をしているため、まっすぐに伸びて年輪の目が細かい良質の古木が多く、高値になるのだそうです。
このような名木は、木目の美しさと強度があるのが特徴で、神社や帆船、公共建築物などに利用されています。
「これまで、一番高い注文が来たのは細かい指定の条件を満たすスギを5本揃えてほしいというようなオーダーで、億単位の取引でした。でも、2本揃わなくて商談成立はしませんでしたね」。

北里さんに案内されて、森の深部へ入ってみる。

小国杉の森に入ると、背の高いスギの合間からやわらかい日差しが差し込み、伐った木の株から香ばしい香りが漂ってきました。長く続く森を育てるには、土地に手を入れすぎてはいけないと北里さんはいいます。強い子孫を残すために、適切なタイミングで手を入れる。そのためには木や土のこと、水、斜面の光の当たり具合、天候、伐るための技術などさまざまなことを知っていなければなりません。また、前提としてよく森を見ていることも必要。
小国には、他にもこういった心持ちの山主が多いためか、遠くから見ると森のかたちが美しく整っています。山中も雑木林にはなっておらず、手入れの届いた山中には名産の椎茸のホダ木が並んでいました。
小国杉の精油は、このように山主が森を育てるために伐採したときに落とした原木の葉を使っているのです。

250年の森は手をいれすぎず、放っておきすぎず。「スギが自ら大きくなろうという環境になるよう、手を添えるのが人間の役目」と北里さんは言う。

注1 熊本県小国町
熊本県最北に位置し、大分県との県境にある中山間地域の町。1985年の町制施行50周年をきっかけに小国の自然背景を生かしたしたまちづくり計画、“悠木の里づくり”が始り、木のまちづくり運動が全国的に知られるようになった。

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Profile

朝比奈 千鶴 (あさひな・ちづる)
環境カオリスタ、トラベルライター

自然や文化を体感することで旅人があらゆるものにつながりを実感する旅を「ホリスティックトラベル」として提案している。また、これまで国内外問わず「人びとの暮らし」を取材してきた経験から心地よい暮らしを提案するレシピ本やイベントなどのプロデュースも行う。CS旅チャンネル「ホリスティックな週末」では、ナビゲーターを務めた。