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昔話というとあなたは何を思い浮かべますか。子どもの時に聞いた昔話や子どもにいま読んで聞かせている昔話のこと、なかには囲炉裏端の記憶、お母さんやお祖母ちゃんの膝の上の温もり、紙芝居、アニメなどもあるかもしれませんね。このように昔話は世代を超えて様々なところで語り継がれ、楽しまれてきたエンターテイメントと言えるでしょう。
さて、昔話は何だか荒唐無稽な物語のように見えますよね(これも面白さの一つですが)。でも、採集狩猟や伝統的な農耕牧畜生活に深く根ざした昔話の中には、自然と付き合う大切な知恵の数々がシンボリックに表現されたものも少なくありません。さあ、どんな知恵が隠されているか。皆さんも一緒に〈環境めがね〉を掛けて、昔話に秘められた宝(知恵)探しのアドベンチャーを楽しんでみませんか。
ウナギとくれば平賀源内、江戸後期に「本日土用の丑の日鰻の日」のキャッチコピーで蒲焼きを大いに流行らせたとか。古くは『万葉集』に大伴家持のこんな歌もある。
石麻呂にわれもの申す夏痩せに
よしというものぞむなぎとりめせ ※むなぎはウナギの古名
(石麻呂さんに申し上げますよ。
夏痩(や)せに良いそうですから鰻(うなぎ)を捕って食べてくださいな。)
万葉の昔からウナギは夏バテに効くと重宝されていたんですね。そのウナギもいまでは乱獲や川、池、沼などの生息環境の悪化で天然モノどころか養殖用仔魚のシラスウナギすら激減し、ヨーロッパウナギのシラスウナギを大量輸入。これさえも2007年の「ワシントン条約(*1)締約国会議」で輸出入の規制対象に。ウナギも絶滅の恐れのある野生動植物の一つになってしまった、というわけです。
ところで、古くから食されてきたニホンウナギも、謎に包まれた生態が分かってきたのは最近のことらしい。産卵はマリアナ諸島西方の夏の新月近くの海で行われ、卵から孵った仔魚のシラスウナギは約3千キロメートルを泳ぎ河口までやってくる。そして冬から春の新月の夜、満ち潮に乗って川を遡上する。湿った土や草の上を這いながら池や沼にも入り込み、ウナギとして5~10年を過ごすと再び遥か彼方の生まれ故郷の海へ。この長い旅の間、何も食べないんだとか(スタミナ、すごいね)。
さて、ウナギの話はこのへんにして。今回の昔話は「鰻の娘」。マイナーな昔話だから見たり聴いたりしたことないと思うな、多分。何を隠そう実はこれ、十年一昔と言いますけどその倍の二十数年前に某テレビ局のアニメ「まんが日本昔ばなし」で、たまたま目にした幻の昔話(*2)なんです。記憶力に自信なし、老人力に自信あり。違っていたら、ウナギさんごめん。
*1 正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」。1973年に採択、1975年に発効、日本は1980年に加入。野生動植物の国際取引の規制を輸入国と輸出国が協力して実施することにより、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保護を図ることを目的としている。
*2 類話は『聴耳草紙』(佐々木喜善、ちくま学芸文庫)の「鰻の旅僧」のほか、広く各地に伝えられている。「鰻の娘」は山梨県の民話「娘に化けた大ウナギ」をアレンジしたものか。ちなみに『遠野物語』は佐々木喜善が故郷の伝承を柳田国男に語って聞かせたことから生まれたもの。
ということで、この昔話も三幕ものでいきますね。
まずは第一幕。
昔々の話じゃ。山間(やまあい)の村にウナギのたくさんいる沼があったそうな。ある日のこと、村の若者が集まって、谷地(やち)の沼にウナギを捕りに行くことになったんだと。「一匹や二匹じゃあつまらんで、沼のみなば捕らねが」。そこで、若者らは毒のある草の根を採ってくると、沼の畔でそれを捏ねては団子を作り始めたと。
これはまさに“一網打尽”を狙ったというわけ。しかし、同じ一網打尽といっても“環境めがね”で見ると鬼平犯科帳のように悪党どもが一掃され江戸の町に平穏が戻ってきました、とはいかない。親がいなくても子は育つ。が、親も子もいなくなれれば何もない。魚、捕れなくなってしまうよね。
次は第二幕。
そうするうちに団子づくりが一段落したんで、昼飯のオムスビを食べることにしたと。するとなあ、どこからともなく美しい娘が現れたそうな。娘は悲しげな顔ばして「そんなことしたら沼のウナギも魚も、大きいのも小さいのもみな死ぬべが。どうか思い止まりませ」とたのんだんだと。そんで、若者が「いんや、きっとそんなことはせん。まあ、これでも持っていねや」と言って一番大きなオムスビをあげると、娘は喜んで帰っていったそうな。ところが娘がいなくなるとな、若者らは沼のあちこちに毒の入った団子を撒いたんだと。
先の“一網打尽”だけじゃなくて“濡れ手に粟”や“一攫千金”といったことわざもあるように、何ごとにつけ労せずして大きな利益を得たいという欲を抑制するのは難しい。先々までの(持続可能な)利益よりも目先の利益に目が眩む。いまでも時々、底引網で海の底まで浚うとか、川に電気を流しそこの魚を根こそぎ感電死させる漁法が問題になったりする。そうそう、しばらく前のことだけど、東南アジアのサンゴの海に薄めた青酸カリを流して魚を捕ってしまう話がニュースに取り上げられたこともあったよね。この昔話でも美しい娘(沼の主)がストップをかけても、若者達は毒入り団子を撒いちゃった。
で、第三幕。
そしたらなぁ、ウナギや鯉や鮒や、大きいのや小さいのがたくさん浮いてきたと。「いっぺぇとれた、いっぺぇとれた」と集めていると、中にひときわ大きなウナギがいたんだと。見るとお腹のあたりが大きく膨らんでいたって。そこでな、腹を裂いてみると何と大きなオムスビが出てきたと。若者らは皆もう震え上がってしもうて、捕ったウナギやらなんやらみな投げ出すとほうほうの体で村に逃げ帰ったんだと。それからちゅうもん、その沼には誰も近づかんようなったということじゃ。
ちょっと恐い話でしたね。ウナギが美しい娘に化けたり、お腹からオムスビが出てくるなんて。でも魚が捕れなくなってしまったら、もっと困ったことになるよね。それだけ強い“戒め”が込められているってことかな。
少し解説的になるけど、魚類や哺乳類、鳥類などの生物資源はその収穫に一定の限界量があって、その範囲を超えて乱獲すると資源の枯渇を招く、ということ。特に湖沼や干潟などの湿地(ウエット・ランド)は「生物多様性のゆりかご」なわけ。たとえば、国際的に貴重な湿地を対象にした「ラムサール条約」(*3)は、“一網打尽”に対して“ワイズ・ユース(賢明な利用)”を提唱してるんですね。つまり、生物資源を保護しながら持続的(サステナブル)に利用しましょうね、ってこと。
「ワシントン条約」と「ラムサール条約」でサンドウィッチ風に仕上げたウナギ料理…じゃなくって 昔話「鰻の娘」のおそまつ、これにてとっぴんぱらりんのぷう。
次回はロシア民話「大きなカブ」です。請うご期待!
*3 正式名称は「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約」。1971年に採択、1975年に発効、日本は1980年に加入。国際的に重要な湿地及びそこに生息、生育する動植物の保全と賢明な利用を推進することを目的としている。なお、この条約に定める湿地(ウェットランド)には、河川、湖沼、湿原、水田、ため池、サンゴ礁、マングローブ林、干潟、藻場などが含まれる。
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- 藤田 成吉(ふじた・せいきち) 東海大学教養学部人間環境学科特任教授
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1944年生まれ。同志社大学経済学部卒、環境事業団審議役、東京学芸大学非常勤講師、東海大学教養学部人間環境学科教授を経て現職。現在、平塚市環境審議会会長、長野市廃棄物減量推進審議会委員、秦野市環境基本計画作成委員会会長なども勤めている。 『環境カオリスタ検定公式テキスト』を監修、2010年7月より(社)日本アロマ環境協会理事。





