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環境めがねで見てみよう ~昔話・大きなカブ編~

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昔話というとあなたは何を思い浮かべますか。子どもの時に聞いた昔話や子どもにいま読んで聞かせている昔話のこと、なかには囲炉裏端の記憶、お母さんやお祖母ちゃんの膝の上の温もり、紙芝居、アニメなどもあるかもしれませんね。このように昔話は世代を超えて様々なところで語り継がれ、楽しまれてきたエンターテイメントと言えるでしょう。

さて、昔話は何だか荒唐無稽な物語のように見えますよね(これも面白さの一つですが)。でも、採集狩猟や伝統的な農耕牧畜生活に深く根ざした昔話の中には、自然と付き合う大切な知恵の数々がシンボリックに表現されたものも少なくありません。さあ、どんな知恵が隠されているか。皆さんも一緒に〈環境めがね〉を掛けて、昔話に秘められた宝(知恵)探しのアドベンチャーを楽しんでみませんか。

(5)大きなカブ

今回はロシア民話(*1)「大きなカブ」です。どんなお話か知ってますよね。シンプルでリズミカルだし意外性もあり、牧歌的というか明るくて透明な空気も感じられる。そんなところが幼い子どもたちに人気なのかもしれません。
しかしこのほめ言葉も、ひっくり返すとこうなります。すごく単純で繰り返しが多くて、荒唐無稽というよりも子どもだましみたい。昔話にはどこか暗い影の世界が潜んでいるものですが、「大きなカブ」には影も形も見当たらない。幼い子どもと一緒なら一緒に楽しめるかもしれないけど、ちょっと勘弁してほしいなんて思っちゃうかもしれませんね。
でも、もう少しお付き合いしてみませんか。単純なプロット(筋)のあちこちでハテナ・マークが点滅し始めますよ。知ってるつもりの「大きなカブ」ですが、ここでは、簡略化したお話をもう一度読み直してみましょう。

おじいさんがカブをうえました。「甘い甘いカブになれ。大きなおおきなカブになれ」。カブは甘い大きなカブになりました。おじさんがカブをうんとこしょと引っ張っても抜けません。おじいさんがおばあさんを呼んできて、おばあさんはおじいさんを、おじいさんはカブを引っ張っても抜けません。おばあさんがまご娘を呼んできて、まご娘はおばあさんを、おばあさんはおじいさんを、おじいさんはカブを引っ張っても抜けません。まご娘は犬を・・犬は猫を・・猫はネズミを呼んできて・・ネズミは猫を、猫は犬を、犬はまご娘を、まご娘はおばあさんを、おばあさんはおじいさんを、おじいさんは大きなカブを引っ張ると、カブはとうとう抜けました。


(C) 孫 瑞寧(ソン ズイネイ)

さて、どうでした。あなたの頭の中で色んなハテナが浮かんだり消えたりしたかもしれませんが、ここでは‘環境メガネ’をかけて三つのハテナを中心に考えてみましょう。一つは<つながりの不思議>、二つは<おじいさんの魔法>、三つは<ポスト・ハーベスト>です。

まずは、<つながりの不思議>。おじいさんーおばあさんーまご娘―犬―猫―ネズミ。登場人物も登場動物?も昔話にお馴染みの顔ぶればかりですが、この‘つながり’のなかで仲の悪い猫がネズミ(*2)を呼んでくるのはちょっと変な気もしますよね。でもヒトと猫とネズミとは約五千年前、古代エジプト人がナイルの賜物(麦)を掠め取るネズミに悩まされ、アフリカ北部リビア地方の野生猫を家畜化したときからの深い縁?で結ばれていると言えなくもない。   


*1 民話とは口承によって民間に伝えられてきた散文形式の物語の総称で、昔話や伝説、世間話などが含まれます。昔話は、伝説と違って特定の場所や人物に囚われない‘むかし’‘あるところ’の物語のことです。

*2 昔話「十二支(えと)の起こり」では、猫が鼠にだまされて十二支の仲間に入れなかったことを恨んで、鼠捕りをするようになったとされています。

また、嫌われネズミも他方では火事を予知してくれるなどの言い伝えや、昔話「ねずみ浄土」や「ねずみの嫁入り」など、民話や伝承の世界では好感度キャラ(*3)だったりと、両義的な存在なんですね。で、ちっちゃなネズミが加わると、大きなカブが抜けたってのもハテナじゃないですか。やはりネズミがキー・アニマルかもしれません。まずは環境メガネでネズミを観察してみましょう。どうです、ネズミの先に隠れていた‘つながり’が見えてきませんか。そうミミズです。尻取りゲームじゃありません。ネズミのシッポって毛がなくてミミズみたいでしょ。ネズミがミミズを呼んできて、ミミズがネズミを引っ張って・・つまり、大地の生き物ともつながったので根菜のカブがやっとこさ抜けた、というわけです。

‘つながり’のもう一つのハテナを挙げると、そのつながり方。おじいさんがおばあさんを呼んで・・(抜けないので)おじいさんがまご娘も呼んで・・(それでも抜けないので)おじいさんが犬も呼んで・・(それでもそれでも)抜けないのでおじいさんが猫を呼んで・・じゃないところ。ここがキモだと思う。おじいさんが全てをつなげるとしたら、家父長制とか人間(男性)中心主義になっちゃう。夫々がそれぞれにつながる。見えない土の中ともつながる。エコロジカルな命の連鎖を象徴しているのかもしれませんね。

さて、次のハテナは<おじいさんの魔法>。「大きなカブ」の始まりは実はこうでした。「おじいさんが カブをうえて いいました。あまい あまい カブになれ おおきな おおきな カブになれ。カブは あまい それは それは おおきな カブに なりました」。どう読みましたか。昔話らしくていいじゃない。それとも、そんなのありか。大きくなれと言ったら大きくなったなんて、まあちょっと考えるとハテナの二乗ですよね。

では環境メガネをかけてみましょう。おじいさんがチチンプイプイと魔法をかけているシーンが浮かんできませんか。「おおきくなれ あまくなれ」は呪文だったのですね。おじいさんの魔法ですっかり見えなくなっているけど、大きなカブを引っ張るという話の前に、ほんとうは同じようにみんなが力を合わせてシャドウ・ワーク(影の仕事)をしながらカブを育てていた。見えないところで命の輪が回っていたんだね。更に‘環境メガネ’で土の中を見ると、ミミズが1日に自分の体重の6倍もの土や落ち葉などの有機物を食べながら土づくりをしていたり、その1グラム当たりで数十億の土壌微生物も影の仕事をしている。

そうか、おじいさんの呪文は時空を超えて、機械化や化学肥料、農薬などで見過ごされがちになった生き物たちのシャドウ・ワークの大切さを、魔法というシュール・リアリズム(超現実主義)の手法で私たちに気づかせようとしてくれているんじゃないの?と、ここまで言うと飛躍しすぎでしょうか。

では、三つ目のハテナ<ポスト・ハーベスト>。大きなカブの終わりはこうでしたね。「・・おおきなかぶは とうとう ぬけました。」よかった、よかった、でも拍子抜け。よっこらしょ、うんとこどっこいしょ、威勢のいい掛け声がどうにも止まらない。というか、終わった話が終わらない。

ハテナ、抜けた後、大きなカブはどうなったの。だれが食べたんだろう。大きくなりすぎた野菜はたいてい大味でまずい、なんてまっとうな意見を言う人もいるし。ネズミも嫌がって食べなかったのかなあ。でも、おじいさんの魔法の力を侮るなかれ。「あまくておおきなカブになれ」と、呪文でちゃんと唱えているじゃないですか。だから甘くて美味しいんだと断言したいところだけど、じつは作物のうまみは土壌微生物が支えているんですね。これが魔法のカラクリ。根粒菌で有名な豆類だけでなく多くの植物も、菌根菌(エンド・ファイト)と共生していることがだんだん解かってきた。こう考えると、大きくて甘くて美味しいカブは‘大地の恵み’のシンボルってことじゃないのかな。

というわけで、ポスト・ハーベスト(収穫後)の隠れていた物語は、‘植物(生産者)の大きなカブを、動物(消費者)から微生物(分解者)までが分かち合い、美味しく食べましたとさ’というものです、たぶん。

さて、こうしてみると民話「大きなカブ」は本編と隠れた二つの物語(シャドウ・ワークとポスト・ハーベスト)の三編で構成された、大地の恵みへのオマージュ(讃辞)と言えるのではないでしょうか。もしそうだとしたら、幼稚園のお遊戯だけでなく、有機農産物の収穫祭などでも上演したいものですね、ただし三幕ものとして。

次回は、イソップ童話「金のたまごをうむ めんどり」です。請う、ご期待!


*3 絵本のロングセラー「ぐりとぐら シリーズ」(文・なかがわりえこ 絵・やまわきゆりこ)や「14ひきのねずみ シリーズ」(いわむらかずお)などは、ネズミ・キャラの定番と言えるでしょう。

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